01生理機能や行動に雌雄の違いを生み出す脳内メカニズムの解明
担当:大久保
動物の生理機能や行動には、様々な雌雄の違いがみられます。例えば、どの動物種でも多くのオスはメスを配偶相手に選び、逆に多くのメスはオスを配偶相手に選びます。そして通常、求愛はオスが行い、メスから求愛することはあまりありません。求愛の方法には、装飾や色彩のディスプレイ、歌、ダンス、貢ぎ物など、動物種によるバリエーションがみられますが、オス側からアプローチをかけることは、多くの種で共通しています。また、メスよりもオスの方が一般に高い攻撃性を示し、オスは縄張りやメスを巡って頻繁にケンカします。ストレスへの応答方法も雌雄で異なることが知られており、体の大きさや成長スピード、性成熟に達する年齢、寿命が雌雄で異なる動物も多くいます。同じ種類の動物でも性別によってこれほどの違いが生じるのは、実に不思議なことです。
脊椎動物では、上記のような雌雄の違いの多くは、精巣や卵巣から放出された性ステロイドホルモン(女性ホルモン、男性ホルモン、黄体ホルモン)が脳に作用することで生み出されると考えられています。私たち人間でも魚類でも、そう考えられています。しかし、性ステロイドホルモンが脳内でどのような機構を作動させることで、それぞれの生理機能や行動に雌雄の違いが生み出されているのかは明らかとなっていません。そこで当研究室では、雌雄の違いが性ステロイドホルモンに特に大きく依存する魚類のメダカを使って、この機構を明らかにすることを目指して研究を進めています。
これまでに、卵巣から放出された女性ホルモンは、脳内のEsr2bというタンパク質(女性ホルモン受容体の一種)を活性化することで、性指向をメス型化する(つまり、オスを配偶相手に選ぶようになる)とともに、自分から配偶相手にアプローチすることを防いでいることを見出しています。また、活性化したEsr2bによってメスだけで合成が促進されるNpbaという脳内ホルモンの一種によって、メスはオスの求愛を適切に受け入れたり拒んだりできるようになることや、オスの精巣から放出された男性ホルモンは、ガラニンという脳内ホルモンの一種の合成を促進することで、縄張り意識を高め、他のオスを追い払う攻撃行動を引き起こすことを見出しています。その他、性成熟や体色変化を引き起こすホルモン(下垂体ホルモン)の調節に、オスとメスが異なる脳内因子を使っていることなども分かってきました。